① 質問は相手が答えやすいように、具体的な質問をする
② 無理に聞き出そうとしない
過去の記憶が楽しいものばかりとは限らないので、質問をして相手が自ら進んで話すようであれば傾聴し、話したがらない場合には質問の内容を変える。
③ 間違いを訂正しない
相手の語ったことが事実ではなくても訂正せずに聴く。大切なのは正確に思い出すことではなく、過去の記憶をたどることにある。
つまり、昔を思い出して皆で語り合うことで、「楽しい気分」「幸せな気分」になることをケアに活かすのです。楽しかった時代を思い出す事により、楽しい時間が蘇るのですね。
回想時は相手を静かに落ち着かせて集中させ、急がずゆっくり時間をかけ行うことが重要だとのことです。自然にわき起こる感情を大切にして、無理に言わせようとせずに、黙って観察していることが肝心のようです。
特に、認知症の方への回想法には優しさが大切で、五感を刺激してゆっくり話したり、反復したり、やさしく説明して理解を促すようにすると良いとのことでした。
また、言葉だけではなく、相手に仕草などで表現して貰うことも大切とのこと。
相手の目線に合わせ、顔の表情から「何を感じているか」を読みとり、相手が伝えたい言葉を補ってあげるのも良いそうです。
つまり、その方の気持ちを大切にし、 ‘こころ’ を聴くということなのですね!
【余談】 恩師であるI 先生が晩年に認知症になりました。
J大学の理事長をご退任される少し前に、I 先生のお顔を見るため大学病院内にある理事長室に伺いました。励ますためです。
日頃より、先生の奥様から 『○○ちゃん(私のこと)、わたくし(奥様ご自身)のことは良いから、 大学に行ったら、おじいちゃん(I先生のこと)の顔を見に寄ってあげてね!』 と頼まれておりました。
先生は所在無げにポツンと応接室に座っておられました。長年、傍らの秘書室で目の当たりにしていた‘ 強くて肝の据わった先生 ’とは異なり、落ち着かない様子で、不安げでもあり、とても寂しそうでした。
I 先生は私の顔を見るとにっこりされました。そして、この日 ご自分の脈が速い(ご退任の不安とストレスからでしょうか?)とかで、私の脈を見ると仰いました。後にも先にも名医に脈を取ってもらったのは初めてでした!
『あんたの方が(脈が)速いから、儂(わし)は大丈夫だ!』 と少し安心されました。
そんなことで恩師に安心して頂けて、わたしは光栄(?)でした!
私が持っていた ‘野球観戦用の双眼鏡’ をご自分も欲しかったとかで、学会出張の際、飛行機の座席前のポケットに挟んである通販カタログを持ち帰られ、秘書に注文させておりました。
『あんたの(持っている双眼鏡)より、数倍よく見えるぞ!』 等と自慢しておりました。
本来の先生はこちらが多くを語らなくても、相手の云わんとすることを察し、的確な判断を下す方でした。本当に凄い先生でした。そういう場面を私は何度も目にしました。
この日、私は日頃から何度もお聴きしていた「(I 先生にとって一番良い時代と思われる)シカゴ大学赴任時代」に話を向けてみました。
若き新進気鋭の I 先生が精力的にご活躍されていた時代です。
すると先生の顔が見る間に明るくなり、にこやかになって頬を紅潮させました。そして何度も何度も・・・、シカゴ時代の話を得意げに繰り返しお話されました。私は時の経つのも忘れ、ただただ聴き入っておりました・・。
今思うに、これは回想法の一つだったのでしょう。
無自覚とは言え 「( I 先生にとって)楽しい時間と自信を取り戻すお手伝いができ、本当に良かった。」 と私はあらためて思いました。
私にとっても忘れられない とても濃密な時間となりました。
そして、この歓談がご存命中の I 先生との ‘最後の面会 ’ になりました。
【水飛沫オンステージ】 photo: (c) Hiro K http://ganref.jp/m/md319759/portfolios |