前回 130)のブログで、みな子姐さんの写真と吉原に関する本を提供して下さったのは、このブログ 75)76) 「湯島天神祭」にも登場されたMさん(今年82才になられた女性)です。私に傾聴を教えて欲しいと仰った方ですが、それ以来のお付き合いとなりました。
そのMさんが今度は私の『たけくらべ』の朗読を聴きたいと仰るのです。私が近況を尋ねられた際に、朗読のレッスンで『たけくらべ』を一章一章 丁寧に学んでいると、うっかりお伝えしたのがきっかけでした。
私は慌てて「人さまに聴いて頂くには力不足で、まだまだ先になります。」とお返事すると、「早く聴かせてくださいね、私が生きている間に。わたくし、もう82才ですもの。私の感性が豊かなうちにお願いね。」と言われてしまいました。
それで、来るべき私の『たけくらべ』朗読の日のためにお役に立てるならと、花魁道中を復活させた 吉原の料亭 松葉屋の女将、福田利子さんが書かれた本『吉原はこんな所でございました』を貸して下さったのです。
Mさんはとても前向きで積極的な方ですが、以前は 地位ある方だった亡夫に仕え、口答えはおろかご自分の意見など口にすることなく過ごしてきたそうです。ですが 今は自由の身とか。週1~2回の皇居一周散歩などもされていると仰っていました。
そして本来の自分を取り戻し、今まで高齢ゆえ 恥ずかしくて買うのを躊躇していた鏡台を、なんと82才になった今 意を決して知り合いの指物師さんに頼み 誂えたというのです。素晴らしい行動力です。
彼女の素敵なところは「誂えた鏡台」に 初めて映るご自分の姿を想像し、年齢相応のお顔のシミやシワは仕方がないが、せめて ご自分の髪(美しい白髪です)は整えて、綺麗な姿で鏡台に映りたいと、浮き立つ思いで美容院に行ったことです。女心ですね。
しかし 美容師さんに “鏡台” と言っても通じなかったそうです。“ドレッサー” と言い換えて、やっと分かって貰えたと苦笑していました。日本人の美容師さんだったそうですが。 “鏡台” と “ドレッサー” は別物だと私は思うのですがね。
私は「指物師」や「誂える」なんて言葉も通じなかったのではと危惧しました。日本古来の良いものや麗しい言葉、そして文化が失われていく気がしました。
ともあれ、私はその彼女の前で※『口紅のとき』(角田光代著)を朗読して差し上げたくなりました。※『口紅のとき』とは ひとりの女性の6歳から79歳までの “口紅にまつわるエピソード” が書かれた短編連作集で よく朗読される本です。
最後にMさんの名言を一つ。彼女は文化を重んじる方ですが、
『人の生き方に文化がなくなってきたのですね。食事にだって文化がなければ、ただの餌です。』
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