2019年4月25日木曜日

70) 【余談 5】 父母の最後のデート その1

この時期(4月)になると決まって思い出すことがあります。

それは介護療養型医療施設と特別養護老人ホームに、それぞれ入所していた養父母が最後に逢瀬(デート)をした素敵な場面です。15年ほど前のことです。まるで映画のワンシーンのようでした。

場所は薄桃色の桜が満開になった板橋区の城北交通公園。公園内ではサッカーに興じる中学生の歓声が湧き上がってました。若さ弾ける声でした。
一方、老いた父母にとっては人生最後のお花見デートでした。

両親の郷里である山形から、従兄が養父母のお見舞いの為に上京していました。
私たちは先ず母がお世話になっている特別養護老人ホームに行き、母を連れ出して父が入院している病院(介護療養型医療施設)に向かいました。

久しぶりに両親を対面させましたが、認知症の母は父のところに来ると不思議な事にシャキッとします。そして看護師さんが留め間違った父のパジャマの第一ボタンをはめ直しました。素晴らしい夫婦愛です。感動・・しました。


向かい側の患者さんへの注射を終え、通りかかった看護師さんは、その様子をみて目を見張りました。そして一言、「ステキですね。」と仰いました。

その後、私が父を車椅子に乗せて城北交通公園に連れて行き、従兄は母を車椅子に乗せて同じく公園に連れて来てくれました。
天気も良く暖かく、最高のお花見日和でした。のどかな春の一日でした・・。

ただ黙って二人はともに並び、桜の花を見上げてました。言葉はありませんでした。

私は胸が苦しくなりました。息を呑み、佇みました。まるで言葉など発してはいけないような雰囲気でした。時は・・静かに流れました。しばらくして、従兄が「写真を撮ろう!」
と言ってくれました。私たちは車椅子を移動させ、一番きれいな桜のもとに父母を誘導しました。

すると父がいきなり隣の母の手を握りました。ビックリする母・・。おぼこのように恥じらい、手を振りほどこうとしました。決まり悪そうな表情です。でも、頑として父は握った母の手を離しませんでした。

あのような強引な父を見たのは初めてでした。実直でしかも年代的にも人前で女性の手を握る世代ではありません。意を決したかのような行為でした。

そして二人は写真に納まりました。生涯忘れられないほど 美しい瞬間(とき)の写真でした。心に沁みつきました。でも・・、時は無情に過ぎていきました。少し風も出てきたようです。


私は「このまま時間が止まり、二人の逢瀬の時間がずーっと続けば良いのに。続いて欲しい・・。」と切に願いました。

ただ、従兄も私もまだ昼食を済ませておりませんでした。 私は少しもお腹など空いてはおりませんでした。というより胸が一杯でした。でも男性である従兄は別です。しかも彼には山形へ帰る
時間が迫っていました。

(・・・どうしよう?)  


千鳥ヶ淵の夜桜


名古屋 ノリタケの森


2019年4月15日月曜日

69) 【番外編】 傾聴講習会 2019年2月26日(火)

2017年3月に講習をうけた「色カルタ ※クオリア・ゲーム」~色を通して人生の物語を聴く、色によりイメージした話を聴く~に再度 参加してきました。

※クオリア(qualia)とは、個人の感覚的、主観的な経験に基づく独特の質感のこ と。
例えば「‘青空’のような清々しい感じ」とか「‘フルートの音色’のような高く澄んだ感じ」等など。しかし リンゴを見た時に感じる「赤」(その人の感じる‘赤’がクオリア) の感覚は、人により感じる「赤み」が異なる。あくまでも個人の主観と感覚である。

今回はその実践編でした。(下記は先術ブログ ‘34)’ のまとめと復習です。)

一般的に認知症の方は症状の進行と共におしゃれ心がなくなり、服装にも気を使わなくなる。そして暮らしの中で ‘色’ に対する興味も薄れるようである。特に高齢者施設などでは環境の変化が乏しく、自分で着る服の「色」も選ぶことが無くなっている。

しかし眼から入る刺激が低下すれば脳の活性も落ち、認知機能にも悪影響が及んでしまう。つまり「色」を意識すると気持ちにも彩りが出てくるのである。

「色カルタ クオリア・ゲーム」とは「色」を見て選ぶことにより、視覚を刺激し、イメージを膨らませて「思い出」やその時の「気持ち」を蘇らせ、「話をする」きっかけ作りをすると言うゲームである。つまり傾聴活動のツールの一つとなるのです。

今回の実践編では傾聴ボランティアのメンバーがグループになり、実体験するという趣旨でした。

【一般的な実践方法】
①色カルタをテーブルに並べる。
参加者のお年寄りたちの前に、色カルタ(100色以上が望ましい)を広げる。 (お年寄りたちに色カルタを広げるのを手伝って貰ってもよい。) 

②リーダーが読み札(読み札には「初恋を色に例えると?」等とテーマが記載されている)を読む。あるいは単純に「赤いカルタを取って下さい!」とか「黒を取ってください!」等と言っても良い。
③参加者はその言葉から連想した色を取る。(「赤」でも様々な「赤色」を用意しておく。) 参加対象者はなるべく同じくらいの認知症レベルの方々でグループを作る。
④何故その色を選んだか、色のイメージについて会話をする。
参加者にはテーマ毎に色カルタの中から一枚選んで頂き、その方の「状況」や「気持ち」を想像しながら選んだ理由を聴いていくのである。
※②~④を繰り返して参加者との会話を続けていく。

【ゲームをする時の約束事】
・自分の言葉で自由に話をして頂く。
・誰かが話をしている時は最後まで聴くように促す。
・評価、批判、否定をしないで聴いてもらう。
・個々の見え方の違いは問題にしない。ex. 青と緑、赤とピンクなど。
・この場で聴いた情報(秘密)は守るように言っておく。

【注意事項】
・リーダー(読み手)は指導者でもなくまとめ役でもない。
・リーダーはひたすら話を聴く。
・心理的な分析や性格を読み取らない。
・話を誘導しない。
・自分勝手な思い込みやレッテルを貼らない。
・参加者の要介護者がカードを取っていなくても、探しているのか、止めてし

 まったのか等の様子をよく見てゲームを進める。
・話し手に身体ごと(お臍を)向けて、にこにこ笑顔で聴く。
・色カルタを選んだ方には必ず全員にお話を伺う。
・話し始めて止まらなくなってしまった方には、相手の状況により「お隣の〇〇さんのお話も聞いてみましょうね」等と言って話を終わらせるようにする。
・感情的になってしまった方には、その感情を肯定する声掛けをする。「大変でしたね」「嬉しかったですね」「素敵な思い出ですね」など等。
・常に全体を見ながら、話す際は相手に集中すること。
・また、このゲームは早さを競うものではないので、ゆっくり考え のびのびと話して頂く。

 

※興味深い例としては
①「春と言えば何色?」という問いに対して、たいていは ‘桜の花’ から連想し、「ピンク」とか「薄桃色」、または 青空の「ブルー」等を思い浮かべるが、一人「淡緑色」のカルタを選んだ方がいらっしゃいました。それは*御衣黄桜の色とのことでした。
御衣黄桜とは、ソメイヨシノが散った後、4月中旬~下旬頃に咲く桜。サトザクラの品種の1つで、開花したばかりの花は淡い緑色、徐々に黄色(萌黄色)に変化していき、やがて花びらの中心部が赤く染まっていくのが特徴。  

②「青春の色は?」では、「黒」とお答えになった方がお出ででした。 
その理由を尋ねると、「学ランの色」とお答えになりました。(納得です!)

③「お母さまの色は?」の問いでは、お母さまが 普段 お召しになっていた着物(服)の色や優しい母のイメージによる淡い色の「ベージュ」。或いは 優しいけれども厳しかったお母さまのイメージからか「赤茶色」を選んだ方もお出ででした。 

色って、それぞれの方々のイメージなんですね。あらためて合点がいきました。
大切なのは参加者との会話を楽しむこと。相手の話をよく聴き、よく話をさせてあげる事。そして参加者の様子に気を配り、話は一人ひとり丁寧に聴くこと。つまり一人ひとりの思いと尊厳を大切にすることなのです。



【効果】
①参加者のお年寄りが自ら考え、選び、説明することが出来ることで、自己満足感が得られる。
②同じ色を見ながら、話し手、聴き手がそれぞれに「状況」や「気持ち」をイメージ出来る。
③お互いに共感でき、人と人のつながりもできる。
④忘れていた記憶を取り戻すこともある。



ヒヨドリ

ヤマガラとシジュウカラ