2018年11月15日木曜日

59)高田のばば (山形編) その2 (2018年9月12日(水)6:00~7:00)

おばあちゃんは何か言いたそうでしたが・・。黙ってご自分は ‘赤いお顔’ をして湯ぶねに浸かっておりました。なかなか我慢強いお方です。

そして極めつけは脱衣場での出来事でした!

脱衣場には、足拭きマットの横に古びたタオルが箱のような物の上に広げてありました。私は湯ぶねから上がり、身体を拭いて脱衣場に移動しました。
その時、はずみでそのタオルを踏んでしまいました。(いけない! やってしまいました。)

すると、先程のおばあちゃんは『あっ!』と言って頭(かぶり)を振りました。(そのタオルは使用後の ※4 ケロリン桶を伏せて、水気を切るための手作り道具でした。)
私は小さくなって『ごめんなさい。』と謝りました。

※4ケロリン桶(ケロリンおけ)とは、日本全国の銭湯や公衆浴場で使用されている黄色いプラスチック製の湯桶のこと。1963年に内外薬品株式会社の鎮痛薬ケロリンの広告媒体として製造が開始された。以降、公衆浴場(銭湯や温泉地、ゴルフ場、ユースホステル、民宿の浴場等)に置かれ、湯桶の定番として広く使われている。印刷がプラスチックの表面ではなく、内部に埋め込まれるキクプリントという技術を採用しているため、文字が消えにくく、また頑丈であるため、別名「永久桶」とも呼ばれる。

その後 おばあちゃんは、暫く番台の方と雑談をしてから帰られました。

因みに、共同浴場の番台にはご近所の方が交替で座り、入浴料等の管理をしております。「澤の湯」の番台のお姉さん(70才位?)は『気にしないでね! ‘高田のばば’には。』と声をかけてくれました。

『高田のばば?』と私。

『あの人はね、‘高田のばば’ と呼ばれている名物ばあさんなのよ。誰にでも言いがかりをつけるのよ。ごめんね!』と慰めてくれました。高田さんという家(うち)のおばあちゃんなので、すなわち ‘高田のばば’ なのだそうです。

さらに番台のお姉さんは『(私は)あなたがちゃんと身体を洗ってから(湯ぶねに)入ったのを見てたわよ。(高田のばばが)もっと何かあなたに言ったら、中(浴室)に入って窘めようと思ってたの。』と仰いました。(いやいや、そんな大袈裟なことではありませんって!)

その ‘高田のばば’ さんは、昔みたTVドラマ「意地悪(いじわる)ばあさん」(長谷川町子の4コマ漫画が原作)の主人公で、髪型が ‘お団子ヘア’ をそのまま真似ておりました。そう、頭のてっぺんに ‘おだんご’ を結い上げておりました!

すると、脱衣場の長いすに腰掛けていた おばあちゃん(80代位でしょうか)も『そうそう、私も文句を言われた事があるのよ。でもね、自分は浴室に人がいないと、石鹸やら何やら 一切合切(いっさいがっさい)自分の道具を並べて、独り占めにしているのよ。自分のことって分らないのよねぇ。』等と言って加勢してくれました。(いえいえ、私は大丈夫です。何とも思っておりません!)

その土地に生まれ育った地元の人は、余所から来た ‘よそ者’ や観光客のような ‘一見さん’ を拒むのでしょう。大切な場所を荒らされたくないのだと思います。

ちなみに我が妹は『これだから地方は寂れる(さびれる)のよ。排他的なのよね。』などと申しておりました。

しかし、それより何より私が感心したのは、番台のお姉さんが 先程 私を叱った(文句を言った)おばあさんに何か冗談を言い『今日は笑ったから、一日良いことがあるわよ!』等と励ましていたことです。感動しました!素晴らしいです。お年寄りたちのカウンセラーでした。

また ‘腰がくの字に曲がった’ かなりご高齢な方の御着替えも手伝っておりました。決して珍しいことではなく日常茶飯事なのでしょう。とても自然でした。
手際が良く、まるでベテラン介護士さんのようでした。

地方のコミュニティーではこのようなことが自然に出来ているのですね。 声高に唱えるのではなく‘自然に’です。自然に敬聴がなされておりました。

共同浴場で ‘敬聴の極意’ を目の当たりにさせて頂きました。また一つ勉強になりました。


鎌倉 長寿寺