キクさん(99才 女性)とトシコさん(94才 女性)も互いに顔を見合わせているだけでした。
我々の思いを尻目に、サトシさんは出口を探しているようでした。
『玄関は何処かな?』 と私に尋ねました。どうお答えしたら良いのか困りました。
『どこまでいらっしゃるのですか?』とお訊きするのが精一杯でした。
すると、『霞ヶ関か、虎の門まで。地下鉄で行こうかな?』 等と言って、一人で歩きだし、エレベーターの方に向かいました。(文科省を思い浮かべているのでしょうか。)
そして・・、フロアーを一周して戻ってきました。 『エレベーターがね、動かないんだよ。』 とぶつぶつ言いながら。
そのサトシさんに介護士さんは 『 (エレベーターは) 今、点検中ですよ。』 と答えておりました。 (本当は入所者が一人で出て行けないように、カードキーが必要でした。)
それから介護士さんは 『此処で、エレベーターの回復を、みんなで待っているんだよ。』 と ‘まことしやか’ に言いました。
でも、会議の時間 (?) が迫っているサトシさんは、気もそぞろで落ち着かないご様子です。何度もエレベーター前まで足を運び、首を傾げて戻ってきました。
そこに、御歳(おんとし)105才のカズさん(女性)のご登場です。
『一緒に行きましょうか。』 とお声をかけました。
“ジェントルマン” のサトシさんは、車イスにご乗車のカズさんの(片)手を取り、一緒にまたエレベーターの方に向かいました。
まるで映画のワンシーンのようでした。
暫くしてから、今度は何事もなかったように二人で戻ってきました。
そしてカズさんは私に目を留め、サトシさんに 『この方(私のこと)は安倍総理の御妹さんだから、握手して貰いなさい!普通は握手なんかして頂けないのよ。』 と仰いました。(えっ!だれが・・? 困惑の私!)
サトシさんは私をチラッと見ると、右手を差し出しました。私に目くばせして頷きながら・・。
この状況 (カズさんの思い違い) が分っているようでした。
私は何がなんだか分らなくなりました。どなたが正気でノーマルか。
でも、お二人の ‘やり取り’ は優しく温かくて思わず笑みがこぼれました。 ‘上質なコント’ を観ているようでした。
ただ、切ないくらいに悲しいトラジコメディでした。
( 実施日:2018年5月4日(金) 14:00~15:00 )
覚園寺 |
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