2017年10月25日水曜日

33) 『今を楽しめ!』

カズさん(103才女性)から、15年以上もこの施設で掃除婦として働いているOさんを紹介されました。

彼女は現在70才で途中で大病を患たにも拘らず、ずっとこのお仕事を続けているそうです。 
家では80代のご主人が留守番をされており、身体がご不自由にもかかわらず、簡単なお食事の支度をし待っていて下さるそうです。
そして彼女は毎朝5時起きして6時30分には施設に到着。帰宅は毎晩8時半過ぎになると仰っておりました。

 ご夫婦ともすごいです!ご立派だと思いました。 
わたしは彼女から元気をもらった気になりました。 

会話の中でOさんは、『各階の入所者さんを見ていると、よく食べる方は長生きしますね。』 と言っておりました。やはり食欲は生命力に繋がるのですね! 

その後はカズさんの ‘リクエスト’ に応じ、彼女のお部屋に再訪問させて頂きました。
 例の‘変色した銀盃’とも再会を果たしました!

一方、キクさん(97才女性)ですが、 
『何か為さりたい事や食べたい物はありますか?』 と私が質問をすると 
『今はもう何もないわ。年をとると、したい事などみんな無くなってしまうの・・・。』
『(そして) 何にもいらなくなるの・・・。』 とうつろなお顔で仰いました。

 それから私を見据え、『あなたも今のうちに‘食べたいもの’は食べて、‘したい事’はしておきなさいね!』 と返って励まされてしまいました。  

そしてマリコさん(78才女性)ですが、私を見るなり、『草月の先生!』 とまたお呼びになりました。・・・私は機会があればこのフロアーで生け花をお教え出来たら良いなと思いました。

 帰りがけにはカズさんから 『身体に気をつけて元気でね!』 と労われてしまいました。 本来は逆ですよね!?  

余談ですが、  映画 『レナードの朝』 (1990年 ロバート・デ・ニーロ主演) を思い出しました。 医師であるオリバー・サックス著作の医療ノンフィクションの映画化です。

内容は、1960年代に開発されたパーキンソン病向けの新薬 「L-ドーパ」 を投与し、患者らを覚醒させたが、耐性により効果が薄れていった状況が描かれております。

【最初は、ボールや音楽など様々なものを使った訓練により、患者たちは生気を取り戻すことに成功する。更なる回復を目指した医師セイヤーは、パーキンソン病の新薬を使うことを考える。それは顕著な効果をうむ。この成功を踏まえセイヤーは、他の患者たちにも同じ薬を使用してみる。 そうすると期待通り、全ての患者が機能を回復する。そして目覚めた患者たちは ‘生きる幸せ’ を噛み締める。 しかし、その後は病状が悪化し、最後は、レナードをはじめ同じ薬を使った患者たちは、全て元の状態に戻ってしまう。】

ここの皆さまも私が帰った後は、また‘静かな日常’に戻ってしまうのかなと思いました。

         ( 実施日:2017年3月19日(日)14:00~15:00 )



皇居外苑の白鳥

2017年10月15日日曜日

32)番外編 「ユマニチュード」

 「ユマニチュード」とは、フランス語で『人間らしさをとり戻す』という意味で、今から約35年前に体育学を専攻する二人のフランス人、イブ・ジネストとロゼット・マレスコッティによって作り上げられた新しい認知症ケアの手法である。
特別な治療もなく、うつ状態や暴力的になった人へもユマニチュードを通すと、穏やかになることから「魔法のよう」と紹介されることも多い。勿論、ユマニチュードは魔法等ではなく、具体的な技術に裏付けられた誰にでも習得できる介護方法である。

基本は「見る」「話す」「触れる」「立つ」というコミュニケーションを4つの柱とし、150を超える技術から成る。現在フランスでは400を超える医療機関や施設がユマニチュードを導入しており、今ではドイツやカナダなどでも導入され世界中に広まっており、日本にも2011年から導入された。
具体的には4つの手法を組み合わせて行うことで、「見つめながら会話の位置へ移動する」「アイコンタクトが成立したら2秒以内に話しかける」といった150の手法がある。



旧芝離宮恩賜庭園


「見る」
ユマニチュードでも特に大事とされているのは「見る」こと。認知症になると人よりも視野が狭くなるため、先ずは相手の視界内に入り存在を認識してもらうことが大切。
正面(20cmほどの近距離)から、相手と同じ高さの目線で、親しみをこめた視線を送る。ユマニチュードの考案者、ジネスト氏曰く「見ないのは‘居ない’事と同じ」。視線を合わせることで、言葉で説明するよりも早く確実に「私はあなたの味方です」「あなたを大切に思っています」という事が伝えられる。

「話しかける」
ユマニチュードでは、たとえ反応が返ってこない方(但し3秒~3分間位は待つ)に対しても、積極的に聞き取りやすい(大きな)声で話かけ、常にポジティブな言葉を加える。ケアをする時も『今からお口の中を綺麗にしますね』『お口を開きます。さっぱりしますよ。』『綺麗になりましたね、気持ちいいですね。』等と、実況するように優しくゆっくり声がけをする。そうすることで単なる「作業」ではなく、心の通った「ケア」になる。

「触れる」
人間関係を親密にさせる上で、ボディタッチは非常に効果的と言われているが、ユマニチュードでも触れることを推奨している。ケアをする時、相手の背中や手を優しく包み込むように手の平を使い、声をかけながら触れることで安心感を与える。
なお、この時 腕などをつかんだり、無言で触れてしまうと逆効果で、相手に不信感を与えかねない。優しく声を掛けながらそっと触れることが大切。

「立つ」
ユマニチュード考案者のジネスト氏が「自分の足で立つことで人間の尊厳を自覚する。」と語っている通り、ユマニチュードでは最低1日20分は立つことを目指している。立つことで、筋力の維持向上や骨粗鬆症の防止など、身体機能を保つ効果があるのと、他の人と同じ空間にいることを認識することで「自分は人間なのだ」という実感にもつながる。

ユマニチュードケアで「やってはいけない行動」とは
腕などを突然「つかむ」
視界に入りにくい「横」や「後ろ」から声をかける
無理やりに立たせようとする
介護をする立場からすると何気なく行うことでも、認知症を持つ本人にとっては不安や恐怖を煽る行動として捉えられる。ゆえに意識して避ける必要がある。

ユマニチュードの効果とは
認知症の方を「病人」ではなく、あくまで「人間」として接することで、認知症の人と介護者に信頼関係が芽生え、周辺の行動が改善する効果があると言われている。

人は見つめてもらい、誰かと触れあい言葉を交わすことで存在する」というユマニチュード。認知症の方々だけではなく、子供から大人まで全年齢のコミュニケーションでヒントになる部分も多いと言われる。




旧芝離宮恩賜庭園
新宿フィールドミュージアム2017
~朗読と蓄音機と~ 「漱石山房 -硝子戸の中- 」



2017年10月5日木曜日

31) 『お世話されるより、お世話する方が幸せよ!』

この日は風邪が流行っているとかで、施設では風邪ひきの方とひいていない方が遠く離れて座っていらっしゃいました。
介護士さんは気を利かせて、私にもマスクを下さいました。(有難いです!)

 一人ポツンと座っていらしたキクさん (97才女性) の傍に行き 『 いつもいろいろと教えて頂き有難うございます!』 と声をかけると、
『 あらっ、前に (あなたに) 会ったことある?』 とキクさん。
『ええ。ありますよ!』 と私がにこやかに答えると、
『そう? (わたしは) 最近、みんな忘れてしまうの。』 と悲しそうに仰いました。
そして初めてお会いしたかのように話されました。


私が 『キクさんはいろいろと物知りでいらっしゃいますよね!』 と言うと
『昔はね・・・。』 とションボリしてお答えになりました。  
『前回、お話させて頂いた時も色々とアドバイスを下さいましたよ!』 と私が言うと
『あら、そう? 何か貴女に良いこと言ったかしら?』 とちょっと嬉しそうに仰いました。


そして 『もし、貴女に何か良いことを言ったのなら、「昔そんなお婆さんがいたなぁー。」
と思い出してね!』 と付け加えました。

それから何度も 『(わたし、貴女に) 何か良いこと言ったかしら?』 という言葉を繰り返されました。
 

そのうち話は  (大袈裟ですが)  人間関係における会話術に及びました。
『他人と話をする時は断定的な物言いはせず、「○○○と私は思うのですけど・・。」 とか、下手(したで)に出るくらいの方が良いわよ。』 と。
『そして、二つくらい(相手が選べるので) 選択肢を与えて 「○○と言う方法もあるわよ。」 とかね!』 とアドバイスして下さいました。


更に 『決して自分の考えは押し付けないこと。偉そうに言わないことよ!』 と少々背筋を伸ばして仰いました。
キクさんはお話をしているうち、見る見る元気に (シッカリと) なりました。


『辛くて悲しい時には、楽しかった頃の友達を思い出しなさい!』 『私はそうしているの。』 とも。 『感情は顔に出さないことよ!』 と付け加えました。
もうキクさんの独擅場でした!


最後に私が 『 (キクさんは) 生まれ変わったら男性が良いですか、それとも女性が良いですか?』 と尋ねると、
キクさんは 『それは男性が良いわよ!』 と即座に目を輝かして仰いました。


帰りには 『話を聴いてくれてありがとうね!』 と言って、いつまでも手を振って見送って下さいました。


( 実施日:2017年2月4日(土) 14:00~15:00 )




四天王寺 万燈院(紙衣堂)の びんずる尊者