久々の敬聴訪問です。実に4年半ぶりでした。コロナ前にも伺っていた 文京区の高級有料老人ホームに着くと、事務の方から「今日の方(男性)は少し気難しいかもしれません。」と おどかされました。個室で男性入居者と一対一での敬聴は初めてでしたので、私は少々怯みました。
エレベーターに乗り、指定されたKさんのお部屋を訪ねると、奥のベッドに白髪で品の良い方(Kさん)が横たわっておられました。そばに行きご挨拶をすると・・、Kさんは開口一番「(あなたは)何処の大学(出身)?」とお聞きになりました。意外な質問に私はたじろぎましたが・・、母校を告げると にこっとされ、専攻までお尋ねになりました。
お部屋を見渡すと、本棚がたくさんあるのに気がつきました。サイドテーブルの上にも書籍が山積みにされています。Kさんに許可を得て、並んでいる書籍をみせて頂きました。よく見ると・・、書籍の著者名のほとんどがKさんでした。
なるほど! Kさんは元大学教授、学者さんだったのです。今回 私が敬聴させて頂くのは高名な歴史学者、東京大学の名誉教授でした。
重厚なグリーンのソファの脇に車椅子が置いてあります。K先生はベッドに寝転んだまま、私はベッドの傍に椅子を運び 座っての敬聴となりました。
失礼ながらご年齢をお聞きすると「昭和6年生まれ!」と仰いました。私が「では、今年93歳ですね。」と言うと、「えっ、僕はそんな歳?」と仰いました。
「計算すると93歳ですが・・、先生はお幾つだと思っていらっしゃいましたか?」と尋ねると、「80歳くらい!」と即答されました。男性も女性も一緒ですね、若く見られたい(若いと思いたい)のは。
それから、いろいろな話を聴かせて頂き 私もお話させて頂きました。古文書の話になった際、私が師事していたN先生が、K先生のお弟子さんと言うことが分かりました。奇遇です。世の中は広いようで狭いとつくづく思いました。
K先生はたいへん朗らかな方で、いろいろお喋りしてくださいました。ご自分が大学で教えたお弟子さん達の話になると、目が輝き 生き生きし始めます。また六大学の校歌が大好きとのことでした。特に早稲田の校歌、それから慶応、そして一番好きな校歌は明治大学だと仰っていました。腕を振りながら朗々と歌っておられました。
私が「東大の校歌はどんな歌ですか。」と尋ねると、「僕が学生の頃には東大に校歌はなかった」と仰っていました。(※後で調べたら、本当に東大には校歌は無いようです。東京大学運動会歌「大空」と東京大学応援歌「ただ一つ」を「東京大学の歌」としています。)
その後はご両親やご兄弟の話などをお聞かせ下さいました。楽しそうでした。御妹さん方がお好きだったという ‘西城秀樹’ さんの歌まで歌いだしました。「傷だらけのローラ」や「Y.M.C.A.」などです。歌詞がおぼろげな部分は、私も一緒に歌ってしまいました。デュエットです!お部屋の外にまで聞こえる程の大合唱でした。
敬聴時間は少々オーバーしましたが、帰りがけ K先生はご自分の著書を私に一冊くださいました。固くお断りしたのですが・・。(たくさんあるからと仰って。)そしてK先生は「愉快だったね。ありがとう! また来てね。」と仰いました。