2022年8月25日木曜日

150) 【徒然に】哀しき時計

九段幼稚園の赤Tシャツ男児による ‘時計’ の件で、私は大好きだった養父のことを思い出しました。腕時計にまつわる記憶です。

男児の ‘時計’ へのこだわりは「お母さん(ご家族)のお迎えを、今か今かと心待ちにしている」その表れのような気がしました。大きな時計を胸に抱えて私の腕時計を覗きこみ「いま、何時?」と訊ねた‘その顔’が忘れられません・・。

20年ほど前、私は養父母の介護中に体調を崩して入院し手術を受けました。1ヶ月弱の入院になりました。然しながら、monthlyの学会(論文)誌の編集が仕事でしたので、入院中は電話でアルバイトに指示を出し、退院後も直ぐに出勤しなければならない状態でした。

幸い入院前に、父を介護療養型医療施設(今でいう介護医療院)に、そして母は何とかぎりぎりで 運よく特別養護老人ホームに入居させることが出来ました。ただ、退院後は思うように体力が戻らず、私は日々の勤めだけで精一杯でした。

そんな状態でしたので、平日はもとより土日も疲れて 其々の病院や施設に様子を見に行くのがままならず、毎週日曜日に父母どちらかの一箇所にしか行けませんでした。(可哀想なことをしました。)

退院直後 久しぶりに父の病院を訪ねると 父は私の顔が分かりませんでした。風邪予防のためのマスクのせいかと思い 外しましたが、父は困ったように首を傾げました。ハッとしました。私が以前より痩せていたからです。父の姪が私の名前を伝えると、父は初めて嬉しそうに笑顔を向けてくれました。

親戚の人達は本当に良く手伝ってくれましたが、やはり、父母は私の面会を待っていたのです。其々の所に、月2回づつの訪問が2~3ヶ月続きました・・。

二度目に父へ会いに行った時は、待ちかねたように笑顔で迎えてくれました。が・・、私が辛そうにしゃがみ込むと、父はあんなに私の来訪を待ちわびていたのに「疲れているようだから今日はもう帰りなさい。」と優しく しかし目を伏せて言いました。私は自分が情けなくなりました。病院の滞在時間は たったの10分でした。

その後は徐々に体力も回復し 頻繁に父母の面会に行けるようになりました。

或る日、父は私の顔をみると「この腕時計は壊れている。」と訴えました。そして「新しい時計を買ってきて欲しい!」と頼まれました。「いくら高くても良いから。」と 外国の高級腕時計の商品名をあげました。

父は腕時計を外して私に見せました。でも・・、時計は正常に動いているし、時刻も正確でした。故障などしていません。そう伝えても父は頑として聞きませんでした。「時間がぜんぜん進まないんだ。」と言い張りました。

その父とのやり取りを聞いていた 年配の看護師さんが言いました。「お父さんはいつもいつも時計を見ているの。あなたを待っているのよ。」と。私はやっと解りました・・。高級腕時計なら ‘正しい’ 時を刻むだろうと父は考えたのでしょう。切ない話です。

「こんど娘はいつ来るんだろう? 今日かな。明日かなあ?」「今日は日曜日だし、もう直ぐかな? 早く来ないかなあ。」等と待っていたのでしょうね。だから なかなか ‘時計が進まない’ のです。何ともやるせない気持ちになりました。

男児や父の ‘時計’ に対する思い入れは「時間への執着心」のように思われました。男児は「淋しさや不安感から何かにしがみつきたい気持ち」そして父の場合は「孤独感」でしょうかね。いずれも愛情を求めているのだと思いました。私はそう感じました・・。

幼稚園の男児が父と同じ気持ちだったとは思いませんが、父の時も 先日の幼稚園でも、私は胸が締め付けられる思いがしました。
 

ヤマシャクヤク




2022年8月15日月曜日

149) 【徒然に】園児たちからの「可愛い~!」コール

またまた コロナ感染者が増え ビクビクしながら市ヶ谷へ向かいました。マスク、消毒液を持参し感染対策はバッチリです。あとは 3蜜(密閉・密集・密接)をさけてと自分に言い聞かせて、いざ幼稚園での「読み聞かせ」ボランティアへ。

でも・・、子供たちが待っている2Fの教室に伺うと、想定外の大人数、25名の園児たちが待ち構えていました。「今日は預かり保育の園児が多いんです。」と先生。先輩の話では「読み聞かせ者一人につき 5名ほどの園児」とのことでしたが。

一つ目の蜜(密集)はあえなく消沈。そして一番手の私が持参した絵本『にんじんさんがあかいわけ』を手に携え いつもの教室ではなく、書棚がある仮設のスペース(密閉?)に向かって歩き出すと・・、いきなり赤いTシャツを着た男児が私の腕をつかみ「いま、何時?」とまさかの超スキンシップ、超 密接! (えっ、なんで?) 

男の子は自分の顔より大きな ‘壁かけのマル時計’ を左の腕で抱きかかえていました。そして(腕)時計に興味があるのか、私の時計をベタベタと触り始めました。
それから私の顔を見て「ねぇ、頂戴!」とおねだりをはじめました。「ごめんね、私、この時計一つしか持っていないの。」とやんわり断りました。「ふうーん。」と彼。残念そうでした。

それで済んだかと思いきや、今度は他の園児たちも私の周りに群がってきました。(またしても・・、なんで?)皆で腕時計を覗きこみます。私は焦りました!何故って、私は敢えて時計を5分進めていたからです。幼稚園の壁掛け時計とは時間が合わないのです。

先に私は園児らに言い訳をしました。「遅刻しないようにわざと進めているの。」と。すると、あの赤シャツ男児や別の男児が「僕もそう(真似)しようーと。」と言い出しました。真似させないように説得するのに私は一苦労しました。(余計なことは言うものでないと反省しました。)

その後も読み聞かせを始めようとすると、今度は女の子たちが私のカメオのペンダントを目ざとく見つけ反応しました。「カワイイ!」「可愛い~!」と。4~5人の女児と男児までが寄ってきました。ペンダントに触ったり、なかには私の膝の上にのる子どもさえいました。超密集、超密接の極まりでした。

読み聞かせ後に一息ついていると、恐竜のティラノサウルスのTシャツを着た(自称)恐竜博士の ‘ハカセくん’ につかまりました。またもや至近距離でたくさんの会話をし、一緒に本を読んだりして 冷や冷やもので ボランティア活動を続けました。 


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