『地蔵菩薩霊験記』※2 の原文を読むことが私の課題となりました。奥健夫先生からのアドバイスです。
※2 『地蔵菩薩霊験記』:平安時代の仏教説話集で、三井寺の僧実睿(じつえい)撰と称する2巻本と、さらに実睿撰と称する巻三、また良観 (16~17世紀の人であるが伝不明) 撰と称する巻四~十四を加えた14巻本が存在する。
奥健夫先生は仏教彫像の研究において私が最も尊敬する方で、その先生から「『地蔵菩薩霊験記』は、地蔵菩薩を考える上で示唆に富む文献と思います。たいへん面白い説話集なので 是非ともご覧になってください。」という貴重なお言葉を頂いたのです。
先生は『仏教彫像の制作と受容―平安時代を中心に―』で第31回 2019年度の*國華賞を受賞されました。(*國華賞とは1989年に岡倉天心らにより生まれた雑誌『國華』の創刊100年を記念して創設され、日本および東洋の美術についての優れた研究に贈られます。)
その『仏教彫像の制作と受容―平安時代を中心に―』は『地蔵菩薩霊験記』を読む上でも たいへん参考になりました。また私の大好きな 京都 六波羅蜜寺の運慶作 ‘地蔵菩薩坐像’(通称、夢見地蔵)や寂光院の焼けこげた ‘地蔵菩薩立像’ についても かなり詳しく言及されています。文献も豊富で 奥先生の御研究の集大成とも言うべき素晴らしい研究書でした。
然しながら『地蔵菩薩霊験記』の方は全て漢字で書かれており、私は難しくて手を付けられずにおりました。当時は仕事も忙しく 時間的にも精神的にも余裕がなかったためでもあります。
そして・・、何と10年もの歳月が経ってしまいました。それが最近、不意に頭をよぎったのです。今年になり、やっと私は辞書を引きながら読み始めました。
内容は地蔵を安置する寺院の縁起や地蔵信仰によって得たご利益などで、阿弥陀や観音霊験記とあまり変わりませんが、地獄から蘇生した話が多いのが地蔵菩薩霊験記の特徴のようです。
【地蔵】より
… 平安時代後期、民間にも仏教が広く浸透するにつれて地蔵信仰は大いに発達した。11世紀の中ごろ三井寺(園城寺)の僧実睿が民間地蔵説話を集成した《地蔵菩薩霊験記》は後に散逸したが、その説話の多くは《今昔物語集》巻十七に再録されており、当時の民間地蔵信仰の特色をうかがうことができる。
功徳の集積が容易な貴族たちの間では、死後の地獄の恐怖がさして切実ではなく 地蔵への関心が薄いのに対し、浄土往生の功徳を積むすべのない民衆の間では、〈地獄は必定〉という深刻な地獄観の下で、地獄に入って人々の苦しみを代わり受ける地蔵の信仰が発達し、〈ただ地蔵の名号を念じて、さらに他の所作なし〉といった地蔵専修さえ成立したのであった。…
地蔵菩薩霊験記という書物は、平安時代から鎌倉初期にかけて成立したものに、室町時代や江戸初期を通じて増補されたもので、それぞれの時代における地蔵信仰の実態を伝える きわめて貴重な記録として注目されるものであった。
読みおえるまで まだまだ時間がかかりそうです。しかし この際 ゆっくりと楽しみながら解読したいと思っております。
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