以前に文京区主催の『文の京 お茶のいまむかし』という企画展のため、区内の老舗和菓子店を調べたことがあります。老舗とは ‘代々つづいて繁盛し 有名になっている店’ のこと。昔から長く続いている信用ある店のことを指します。
この時に調べた老舗和菓子店のうち、私が特に気に入ったお店が二軒あります。一軒目は「壺屋総本店」、そしてもう一軒は「江戸あられ 竹仙」です。二軒とも大好きなお店で、月に一度 必ず買いに行きます。
文京区で老舗和菓子店の筆頭は「壺屋総本店」です。企画展にも資料を提供して頂きました。壺屋は江戸(東京)で創業した和菓子屋としては最古で、江戸前期の寛永年間に 町民が開いた最初の菓子店「江戸根元(えどこんげん)菓子店」という老舗和菓子店です。
現在 お店は東京大学の龍岡門近く 春日通りに面したところにありますが、店主はなんと18代目だそうです。
まずは勝海舟のエピソードから。
明治維新の折、江戸の大店は「新政府の世になって商いを続けていては、長年に渡りお世話になった徳川様に申し訳が立たない」と次々に暖簾を下ろしていったそうです。
壺屋もまた廃業を決意していましたが、大の壺屋贔屓で、常連客でもあった勝海舟に「市民が壺屋の菓子を食べたいと言っているから続けるように」と諭され再開したのだそうです。つまり勝海舟が閉店を阻止したわけです。
今も店内には この時に贈られた「神逸気旺(しんいつきおう)」の書が大切に飾られています。‘神頼みをするのではなく、気力をもって事に当たる’ という意味だそうです。そして壺屋は江戸時代に京都中御門家より由緒ある店へ贈られる称号である「出羽掾(でわのじょう)」「播磨大掾(はりまだいじょう)」も受けています。
また、永井荷風の『断腸亭日乗』や田山花袋の『蒲団』などの小説にも壺屋の名が見られ、美食家として知られる池波正太郎の『鬼平犯科帳』には化粧品店としてその名が記されています。
看板商品である最中の餡は、北海道産の上質な小豆とざらめを使用しており、その皮は専門の皮屋さんが作った もち米100%の皮です。勝海舟が愛した「壺々最中」それより少し大きい「壺最中」そして壺の形をした大ぶりの「壺形最中」の3種類があります。最中はここのお店のものが一番美味しいと私は思っております。
ちなみに、もち米100%の最中は歯の裏にくっつくこともなければ、パサつくこともありません。買った直後も 皮の香ばしさが際立っています。
なお、材料を厳選し 手作り仕上げの壺屋伝統の味は、本郷のお店に行かないと購入できません。保存料などの添加物を一切使わず日持ちがしないこと、また一つ一つ丁寧に作っていて量産できないことから、ネット通販やお取り寄せ対応はしていないそうです。
また、隠れた逸品の練り切りは 繊細な細工と色合いが素晴らしく まさに食べる芸術品でした!