早めに結婚披露宴会場に着くと、ロビーの中ほどに、木漏れ日を浴び 白髪が美しいご高齢の婦人に目が留まりました。後光がさしているように見えました。その方こそが「ふくさん」(当時 90才)でした!
ふくさんは薄いグレーの訪問着をお召しになり、右手には杖をお持ちでした。ご高齢な方の凛とした姿に、暫し私は見とれていました。
すると、ふいに椅子から立ち上がられました。お手洗いにでもいらっしゃるご様子でした。でも、和服のうえ 杖をつきながら、礼装用のバッグとサブバッグを持たれていて大変そうでした。当時、両親を介護していたこともあり、私は放っておけませんでした。
思った通りトイレの方に向かわれていました。私は思い切ってお声がけしました。『こんにちは。(突然)失礼いたします。私もこちらの披露宴にお招き頂いた○○と申します。よろしかったら 私もトイレに参りますので、ご一緒いたしましょうか。』と。
ふくさんは少し驚いたようでしたが、直ぐに にっこりなさいました。お許しを頂けたので、私はふくさんにゆっくり歩調を合わせ、そして軽く腕に手を添えました。
『大きい方のバックだけでもお持ちしましょうか?』と申し出ると、ふくさんは相好を崩され、『ありがとう!』と仰って嬉しそうなお顔をなさいました。
披露宴の時間になり、ご一緒に席を探しましたが、何とお席は隣り合わせでした。そのため 少しだけお世話をやかせて頂きました。その後 親しくお話を伺うと、ふくさんもまたトモ君の旅仲間でした。80才を過ぎてから海外旅行にいきはじめたそうです。それも年に2回、トータルで20か国にもなるそうです。すごーい!
話が弾み楽しいひと時でした。思い出に残る旅仲間の披露宴となりました。
ふくさんは私に出会えたことをとても喜んで下さいました。『御不浄(ごふじょう)にまで 連れて行って下さり ありがとう!』と何度もお礼を言われました。御不浄とはトイレのことですが、私も久しぶりに耳にした言葉です。
そして こう仰いました。『娘にも紹介し お礼を言わせたいので、今度、ぜひ家に遊びにお出でなさいまし。』と。