2020年9月25日金曜日

104)ワインGメンに間違われたK先生

J大学の脳外科教授室で 学会誌の論文編集をしていた頃、査読委員をされていた放射線科のK教授から※『薔薇の名前』と言う、長い上下二巻の本をお借りしました。

『薔薇の名前』:ウンベルト・エーコが1980年に発表した小説。中世イタリアの修道院で起きた連続殺人事件。事件の秘密は知の宝庫ともいうべき迷宮の図書館にあるらしい。記号学者エーコがその博学で肉づけした長編歴史ミステリで、全世界で異例の大ベストセラーとなり、1986年には映画化もされた。 

本好きと見込まれたようです。が、正直言って苦手な分野の本で困りました。しかし・・、 読まずに返却は出来ません、感想の一つも述べないと。医局の先生方に伺ってみると、口々に「難しそうな本なので、お断りした。」と仰いました。 懐かしい思い出です。

今回、faceboookで【7日間のブックカバチャレンジ】というイベントがあった際に、この本をご紹介された方がいらしたので思い出しました。

結局、私は(情けないのですが)何ヶ月もかけて読み上げました。年表まで作り、登場人物を書き出してです。ショーン・コネリー主演の映画も観て、読解の参考にした次第です。

さて、そのK先生ですが、無類のワイン通で 当時は(J大学の放射線科教授にご就任される前)大阪から御茶ノ水にあるJ大学と本郷のT大学に講義のために通われてお出ででした。その頃は、脳の画像診断が出来る放射線科医は少なく、K教授はまさにその道のオーソリティでした。

東京での講義を終えると、新幹線を待つ間 いつも東京駅の大丸デパートに寄って、ワインを一本一本手にとり 眺めていたそうです。想像ですが、売り場の方に質問もされたと思います。

先生は外見も 帽子が良く似合う 背の高い上品な紳士であり、ワインに精通され 造詣が深いので、終いには、ワインGメンに間違われ、大丸デパートのGMから「顧問になって欲しい!」とスカウトされたとか。医局の先生からお聞きしました。

また、無類の食通でもあり、店の格とか有名店にこだわらず、本当に美味しい店のおいしいものを良くご存知で、いつも美味しいものを嬉しそうに召し上がっておられました。

例えば、ご出張で上野駅発着の列車をご利用された場合は、ランチ用の駅弁としては「深川めし」をご購入。大学で講義後のご昼食は、和洋中 それぞれお好きなお店でのランチを。時には、奥さま手作りのサンドイッチ等もありました。私もご相伴させて頂いたことが何度かあります。(とても美味しかったです!)

或る時、ランチに誘われ 本郷の老舗蕎麦屋さんにご一緒いたしました。お店の二階にある床の間に掛けられていた掛軸の漢詩を、情感豊かに中国語で読んで下さいました。その後に解説して下さった漢詩の内容は、ことさら心に響きました。

そして 肝心な私のお仕事、論文査読の際ですが、(私は教授室に呼ばれます。)教授室にはクラシック音楽が流れており、先生の脇机にはステッドマン医学大辞典や医学書、また英英辞典、独和辞典や仏和辞典まで置かれていました。時には私が確認のため 該当する単語を引くなどし使用させて頂きました。優雅な時間でした。

先生は英語のみならず、独学で学んだと言う フランス語が美しい発音で素晴らしく、「会話の中で、原語(その国の言葉)でジョークが言えるくらいでないと まだ本物とは言えない。」と 日頃から仰っていました。

博学な先生のお話は とても面白く勉強になりました。まるで女子大の教授のようでした。そう申し上げると「僕もその方が 楽しかったかもしれないなぁ、」と笑って仰いました。そして「あなたに いろいろ話を聴いてもらって 僕も嬉しいですよ。」と仰って下さいました。

亡くなられる少し前に 病室を見舞った際には、下記の自費出版された非売品の本を下さいました。私の宝です。心よりご冥福をお祈り申し上げます。 合掌











2020年9月15日火曜日

103)今後の敬聴活動とシビックシアター☆トークショー

このコロナ禍により、私のボランティア活動は4月より中断を余儀なくされております。文京区の高齢者施設では今年いっぱい敬聴活動が出来そうにありません。とても残念です。

傾聴ボランティアの会からは『地元のイベントや草花鑑賞を織り込んだ 動画を作成して各施設に配布する。』や『ビデオメッセージや紙芝居、或いはペットの動画を作成しよう。』等の提案がなされておりますが・・。

何もしないでいるよりは良いのかもしれませんが、それらの動画を操作をするのは介護士さんです。コロナ禍で、ただでさえ 仕事量が増えているのに、彼らにこれ以上の負担はかけられません。仕事を増やすことに私は賛成できません。

敬聴とは、本来 話し手(入居の高齢者)が主役です。聴き手である我々は受け身の傍役です。フォローなく動画を送りっぱなしでは本末転倒と考えます。動画を見て頂いた後の お年寄り達の反応や感想など、コミュニケーションこそが 大事だと私は思います。
新しい敬聴のあり方を考え 模索の日々が続いております。まさに袋小路状態です。

「Zoomで敬聴」という手もありますが、同様な観点から 今は踏み込めません。介護士さんの負担が増えてしまいますから。まことに悩ましいところです。

敬聴に限らずリモートでの朗読も、残念ながら 共有している空気感と言うか、その息づかいや波動が伝わりにくいと思います。新しい生活様式での敬聴がどうあるべきか、満足できる答えがまだ見つかっておりません。

このブログをご覧頂いている皆さまのお知恵を拝借したく 切に思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、そんな折 巣籠り状態の私は9月10日、文京シビック小ホールで開催の*シビックシアター・トークショーでの影アナのご依頼を頂きました。今年2月 私が企画し開講した「娘義太夫講座」の時 お力添えを下さった方から等のご推挙でした。

*『疑惑』:1982年制作 監督:野村芳太郎  原作・脚色:松本清張
             音楽:芥川也寸志  主演:岩下志麻 桃井かおり 

当初は岩下志麻さんがお出でになる予定でしたが、大勢の観客で蜜になる危険性を考慮し、ご主人の篠田正浩監督から「講演キャンセル」とのご連絡を頂きました。そして岩波の映画評論家 井坂能行氏のトークショーへと変更になりました。席は収容人数の30%、100席程度に減らし 往復ハガキかメールでの応募でした。

当日は厳重なコロナ対策のなか 116名がご来場されました。大盛況でした! 皆さま ‘イベント’ を待ち望んでいらしたのだと思いました。また、岩下志麻さんからはご丁寧なお手紙とサイン入りの本 10冊が届き、ご来場者に抽選で配られました。

今回のコロナ禍による自粛生活で大切なことに気づきました。人は誰かと喋らないと言葉を発せられなくなるという現実です。喋らないと口まわりの筋肉が衰え、滑舌が悪くなります。声に力もなくなります。身をもって体験しました。

お喋りは大切です。メールでの ‘会話’ ではダメです。今回の影アナの件で早く気がついて良かったです(滑舌トレーニングの良い機会を頂きました。)

施設の高齢者たちが話せなくなる理由の一つが分かりました。痴呆にも繋がる気がします。施設の方と話し合って、リモート傾聴も考える時期なのかも知れません。