大会社の会長夫人であるカツコさんはいつも大きな本物のジュエリーを身につけていらっしゃいます。また大変にオシャレな方で、宝石類のアクセサリーの他、ファッション全般にご興味がお有りになるようでした。それゆえに 敬聴に伺う際 私がつけているアクセサリーや洋服などにも関心をお寄せになります。
一度 私が誕生石であるパールのネックレスを着けて伺った際は「それは ‘ミキモト’ ?」と尋ねられ 戸惑った記憶があります。「いえいえ、普段使いですので ‘ミキモト’ ではありません。」とお答えしましたが・・。また 別の日には、私の小さなダイヤの指輪や馬のペンダントをご覧になり「それ、見せて!」とお願いされたこともあります。
そして私が少々 都会的(シック)な装いで伺った時は「その服はどこのブランド?」と訊かれました。等々。そのオシャレなカツコさんは、ネイルも銀座のサロンに行きネイリストさんに塗って頂いているそうです。「あなたは何処のサロンにいらしているの?」と真顔で訊かれたこともありました。
嫌味なのではなく カツコさんの ‘ご興味のあらわれ’ と思って私は聴いてます。
或る日、この話を友人にすると「あらっ、(敬聴のために)老人ホームに行く時も、そんな風にオシャレをして行かなければならないの?」と逆に質問されました。(私がジュエリーをつけるのは もちろんオシャレのためでもありますが、一種の魔よけです。美輪明宏さんの影響ですが。)
ただ、ファッションに興味を持たれているカツコさんに対し、お話のきっかけ・糸口としてアクセサリー等も良いかなと私は思っております。
この時、今は亡き北陸の国立大学の学長だったT先生を思い出しました。(このブログの49)参照。)先生はそのIQ値がご出身の旧帝国大学で 未だ破られていない程のスーパーブレインの持ち主でした。でも・・、見た限りでは普通の庶民的で気さくなお爺さんでした。そして学長退職後には同県の介護老人保健施設(老健)の施設長になられました。
ある学会でお目にかかり お茶をご一緒した折にこんなお話を聴かせて下さいました。私が10年余り両親を介護していたと告げた時のことです。
当時 現役の老健施設長だったT先生は、真面目なお顔で『オレはなぁ、施設長として一つだけ守っていることがあるんだ。・・。』 と切り出されました。
『オレなんか大したことは出来ないけど、毎月一日だけ 一人5分間だけど、全ての入所者さんとの面談の時間を設けているんだ・・。相手が痴呆であろうと話など出来ない(病気で喋れない)人だろうと、5分間は ‘その人だけとの対面の時間’ にしているんだ。』といつもの気どらない 温かい物言いで仰いました。
その施設は当時 認知症の方40名を含めた総勢100名の方が入所されていました。一人5分間なら具合の悪い方を除き半数位だとしても、4~5時間はかかります。まさに一日仕事です。凄いです。
ある痴呆の女性は、5分間何も喋らずに ただ毎回 先生のネクタイばかりを見つめているそうです。ネクタイにどんな思いがあったのでしょうか。彼女のために 普段は決して ‘オシャレ’ とは言い難い先生は、毎回 ネクタイを替えていると仰いました。(因みに その ‘オシャレなネクタイ’ はパリ在住の姪御さんが、毎年 先生のお誕生祝いにプレゼントして下さったものだそうです。)
・・・その方に合った敬聴、寄り添い方が大切だと私は思いました。
T先生のような ‘ 情け深い’ 施設長にめぐり遇えた入所者さん達は、さぞかし幸せだろうと 私は心から羨ましく思いました。また同時に T先生こそ「敬聴の達人」だと気づきました。今回、その教えをあらためて・・嚙み締めました。
( 2020年1月14日(火) 16:00~17:00)
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