2018年6月15日金曜日

49) 【 余談 4 】敬聴の達人!

今は亡き、北陸の某国立大学の元学長T先生は、そのIQ値がご出身の旧帝国大学で未だ 破られていない程のスーパーブレインの持ち主でした。

でも・・、私がお会いした頃の先生は 見た限りでは、ふつうの庶民的で気さくな御爺さん(おじいさん)でした。そして学長退職後は同県の介護老人保健施設(老健)の施設長になられました。


T先生は、とても有難いことに、いつも私のことを心に掛けて下さっておりました。学術総会中に わざわざ事務局のブースまでご足労くださり、わたしを探して 『○○ちゃん(私のこと)はいるか?』と同僚にお尋ねになったり、私を見つけると 『おお、元気かい?』 等とお声をかけて下さいました。それだけの為に立ち寄って下さるのです。

ある学会でお目にかかり お茶をご一緒した折には、学長時代の逸話や様々な話を、面白おかしく語って下さいました。とても愉快でした。
東北弁を交えてのお話は、語り部による ‘巧みな話芸’ を聴いているような気分にさせてくれました。

私が10年余り
両親を介護していた時の話をすると、現役の老健の施設長であるT先生は、真面目な顔をされ『オレはなぁ、施設長として、一つだけ守っていることがあるんだ。・・。』 と切り出しました。私は思わず居住まいを正して ‘つぎの言葉’ に耳を傾けました。

『オレなんか 大したことは出来ないけど、毎月一回だけ、一人5分だが、全ての入所者さんとの面談の時間を設けているんだ・・。相手が痴呆であろうと、話など出来ない(病気などで喋れない)人だろうと、5分間は ‘その人とだけ’ の対面の時間にしているんだ。』と、いつもの気どらない、温かい(偉ぶらない)物言いで仰いました。

確かその施設は、認知症の方40名を含めた総勢100名の方が入所されている筈です。一人5分なら、具合の悪い方を除き半数位だとしても、4~5時間かかります。まさに一日仕事です。凄いです!

そして、ある痴呆の女性は5分間何も喋らずに、毎回、先生のネクタイばかりを見つめているそうです。ネクタイにどんな思いがあったのでしょうか。

そのために、あまりオシャレとは言えない先生(あっ、ごめんなさい。先生!)は、その方だけの為に 毎回ネクタイを替えていると仰っておりました。

T先生は「パリ在住の姪御さんが、素敵なネクタイを(先生に)プレゼントして下さっている」と照れながら仰いました。
先生の胸元をみると、なるほど、この日も先生はとてもセンスの良い洒落たネクタイをなさっておりました。

T先生のような ‘情け深い’ 施設長にめぐり遇えた入所者さんは、さぞかし幸せだろうと私は思いました。
そして、T先生こそ「敬聴の達人」だと思いました。
亡くなった父母もT先生のような方がいらっしゃる施設に入所させて頂きたかったです。
すべての人を平等にあつかい、人間として向き合って下さる T先生のような方のところに。
                              合掌   

旧芝離宮恩賜庭園 牡丹(1)

旧芝離宮恩賜庭園 牡丹(2)