2018年6月25日月曜日

50) 律儀なガッコの先生 その1

今日は連休のまっ最中です。それで・・、私は外出先から直行のジーパン姿でした。
すると私を見つけたマリコさん(80才 女性)が『先生、(私のこと。いつも ‘華道の先生’ という意味でこう呼びます。)珍しいですね、おズボンなんて。』と仰いました。(あらっ、ちょっと ‘ラフ’ すぎたかしら?)

そして、指のマニュキュアに目を止め『キレイな色!』と言って指をさわりました。私は連休中なので、ワインレッドのマニュキュアを落とさずに施設訪問をしてしまいました。

それにしても凄い観察力です。マリコさんは ‘ファッション’ とか ‘お洒落’ にご興味があるらしく反応が早いです。

一方、キクさん(99才 女性)は『年をとるとね、何でも忘れちゃうの。』と心許なげに仰いました。
『昨日までは覚えていたのよ。でも・・今日は何も覚えていないの。どうしてかしら?』と私に尋ねました。お返事に困りました・・私。

『でもね、誰でも皆、何れはそうなるのよ。私だけじゃないから仕方ないわよねぇ?』と半ば私に同意を求めました。

そして、今度はしっかりと私を見据え『あなたも ‘今’ を楽しみなさいね!』と真顔で仰いました。

暫し キクさんやお隣に座っていたトシコさん(94才 女性)等と歓談していると、真向かいの席で、興味深く私達の話に聞き耳を立てていた男性が、私を見て意味ありげに頷きました。 ・・・?

その方は、新しい入所者のサトシさん(70才 男性)と言う、文京区内の元小学校の先生という事でした。背筋がシッカリ伸び、分別のある穏やかな紳士風で・・、とても入所されるような方には見えませんでした。

サトシさんは我々の話に、時おり相槌を打ちながら、熱心に耳を傾けておりました。『そうですかぁ。ふむふむ、なるほどね!』等と言いながら。


しかし・・、突然立ち上がり『皆さま、いやぁ、今日は楽しかった。でも、私はこれで失礼いたします。これから会議がありましてね。』と仰いました。「・・・・。」私は・・絶句でした!
 
( 実施日:2018年5月4日(金) 14:00~15:00 )
 

大阪中之島



肥後細川庭園


2018年6月15日金曜日

49) 【 余談 4 】敬聴の達人!

今は亡き、北陸の某国立大学の元学長T先生は、そのIQ値がご出身の旧帝国大学で未だ 破られていない程のスーパーブレインの持ち主でした。

でも・・、私がお会いした頃の先生は 見た限りでは、ふつうの庶民的で気さくな御爺さん(おじいさん)でした。そして学長退職後は同県の介護老人保健施設(老健)の施設長になられました。


T先生は、とても有難いことに、いつも私のことを心に掛けて下さっておりました。学術総会中に わざわざ事務局のブースまでご足労くださり、わたしを探して 『○○ちゃん(私のこと)はいるか?』と同僚にお尋ねになったり、私を見つけると 『おお、元気かい?』 等とお声をかけて下さいました。それだけの為に立ち寄って下さるのです。

ある学会でお目にかかり お茶をご一緒した折には、学長時代の逸話や様々な話を、面白おかしく語って下さいました。とても愉快でした。
東北弁を交えてのお話は、語り部による ‘巧みな話芸’ を聴いているような気分にさせてくれました。

私が10年余り
両親を介護していた時の話をすると、現役の老健の施設長であるT先生は、真面目な顔をされ『オレはなぁ、施設長として、一つだけ守っていることがあるんだ。・・。』 と切り出しました。私は思わず居住まいを正して ‘つぎの言葉’ に耳を傾けました。

『オレなんか 大したことは出来ないけど、毎月一回だけ、一人5分だが、全ての入所者さんとの面談の時間を設けているんだ・・。相手が痴呆であろうと、話など出来ない(病気などで喋れない)人だろうと、5分間は ‘その人とだけ’ の対面の時間にしているんだ。』と、いつもの気どらない、温かい(偉ぶらない)物言いで仰いました。

確かその施設は、認知症の方40名を含めた総勢100名の方が入所されている筈です。一人5分なら、具合の悪い方を除き半数位だとしても、4~5時間かかります。まさに一日仕事です。凄いです!

そして、ある痴呆の女性は5分間何も喋らずに、毎回、先生のネクタイばかりを見つめているそうです。ネクタイにどんな思いがあったのでしょうか。

そのために、あまりオシャレとは言えない先生(あっ、ごめんなさい。先生!)は、その方だけの為に 毎回ネクタイを替えていると仰っておりました。

T先生は「パリ在住の姪御さんが、素敵なネクタイを(先生に)プレゼントして下さっている」と照れながら仰いました。
先生の胸元をみると、なるほど、この日も先生はとてもセンスの良い洒落たネクタイをなさっておりました。

T先生のような ‘情け深い’ 施設長にめぐり遇えた入所者さんは、さぞかし幸せだろうと私は思いました。
そして、T先生こそ「敬聴の達人」だと思いました。
亡くなった父母もT先生のような方がいらっしゃる施設に入所させて頂きたかったです。
すべての人を平等にあつかい、人間として向き合って下さる T先生のような方のところに。
                              合掌   

旧芝離宮恩賜庭園 牡丹(1)

旧芝離宮恩賜庭園 牡丹(2)